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固いパンを巡る長いお話

2011.10.14. 金曜日 ときどき小雨

フワフワだったりもちもちだったりの柔らかいパンも好きですが、
ときどき無性に固いパンを食べたくなります。
固いパンとは古くて固くなったのでは、モチロンなく、
初めから固く焼き上がっているが、
噛めば噛むほどじわじわと旨味の出てくる
いわゆるハード系のパンのこと。
その代表がドイツパン。
ライ麦100%のブロートなんて歯が立たないくらいで、
その昔東京から持ち帰って朝食時ぼそぼそぼりぼり食べていたら、
「何が哀しくてそんなもんを食べとると?」と父に言われてしまいました。

でもね、好きになったら忘れられないんですよね、あのぼそぼそ感。
ぼそぼそ囓り、うんぐうんぐ噛んで、ごくりとワインで流し込むとき、
それこそ修道院における“ささやかな祝福感”の疑似体験も楽しめるってわけなのです。

今年の3月に熊本に戻り、まずいちばんに困ったのが、
その固いパンが見つからないことでした。
けっこういろんなパン屋さんで探したのですが見つからない。
たった一度、
上通りの高級フードショップ内のパン・コーナーに
わずかに並んでいるのを見つけましたが、
いつでもあるとは限らないようでその後は遭遇していません。
知人の一人(熊本在住)はこう言います。
「熊本人には固いパンは受けないのかも」。
別の知人(東京在住)はこう言いました。
「熊本だけでなく全般的に地方では固いパンは好まれないね。
 京都だって柔らかいおかずパンだらけだし」。

聞いていると、
なんだか地方は“パンの文化度”も低いって感じ、じゃないですか。
やけっぱちな気分になっていたら、
ところがどっこい、なのでした。
あるところにはあるんですね。
カフェ「おれんじ」の田尻久子さんが
面白いですよ、と連れて行ってくれた子飼商店街ですが、
意外やそこで見つけてしまった、
固いやつを!

子飼商店街というのは
私の子供の頃繁栄した古い地元商店街で、
北側の入口には“日本初のスクランブル交差点”というものがあります。
(新しもの好きの熊本には“日本初”が点在している)
とはいえ商店街が次々と消えていくこのご時世、
あんな小さな地味なところに未来はあるか、と危惧していたのですが、
一歩足を踏み入れば、
まだ朝の10時前というのに買い物客がわさわさと行き交っている。
見たところ行き交われている方々の年齢層は高いのです、が・・・
妙な熱気というか、元気がむんむんとあるんですよねえ。

そこの中程から南方面の辻公園へ少し歩いた左側に、
『香味屋 トトロ亭』というパン屋さんがあったのです。
見た目豆腐屋さんかと思う店舗設計なれど、
パン屋さんです。
まっ先に目に飛び込んで来たは”直火焼”と書かれた看板。
うるわしい手書きの文字が
右に左にタコ踊りして楽しげですなあ。

手描き文字もいい味わい




こちらが店主の小山さんご夫妻。
パン焼きはもっぱら奥様、
ご主人はエプロン姿で接客・販売・運営担当とのこと。

ととろ亭店主 小山さんご夫妻




ショーケースには焼き上がったパンが並んでいました。
いろいろありますよ。
いちじくや木の実入り、ソーセージ入り、チーズ入り、etc・・・。
そして、あッ、いちばん下。
そこに野武士のごとく並ぶは紛う方なき固い輩ではありませんか。
ドイツ系、フランス系のざっと数えて9種類。
こんなところにござしゃったのか!

ケース下段にハード系パン




試食用がケースの上にあったので、さっそくライ麦パンをいただきました。
おっ、素敵な歯触り、そしてこの固さ。
もぐもぐ噛みしめれば滲み出てくるキャラウェイシードのクセある味!
これだこれだ、これではないか、と大はしゃぎして、
「今食べているのはどれですか?」と聞いたら、
「あそこ」と言ってご主人は背後の棚の上を指差します。
棚にはいくつか無骨なパンが並んでいます。

焼き上がり背後の棚で熟成中




固いパンたちは焼き上がった後は棚の上で”熟成”を持つのだそうです。
熟成までに2,3時間。
今いただいているのは前に焼き上がったほうの
ライ麦70%(ブロート)キャラウェイシード入りカンパーニュでした。
久子さんはチーズ入りパンを食べました。(これもうまい)。
そこに焼き上がりということで
ドイツパンでも柔らかいブレッチェンと玄米パンが籠に入って登場。

柔らかいパンは焼きたてを




こちらにも食指が動いてしまうけれど、
今日は何といっても
”やっと巡り会えた固いパン”が主人公。
ライ麦カンパーニュが持ち帰りできるくらいに熟成するのを待ちながら、
ご主人にお店の成り立ちとハード系パンについて
お話を伺いました。
 
   
  もとはね、熊大(熊本大学)のわきで洋食屋をやっていたんです。ほら、  
  あれがその頃の看板(壁に掛かっている茶色に煤けた板を指差す)。
  『香味屋トトロ亭』って言ってね、客は先生とか留学生とか外国から来て
  いる人が多かったですね。するとビーフストロガノフなんか出すのに付け
  合わせがご飯じゃね。具合悪いでしょ。で、家内が店の料理に合うパンを
  焼くようになったんです。
  この場所に移ってもレストランを続けるつもりでいたんですよ。ところ
  がなんのかんの規制があって許可が出ない。それでパン屋をやることに
  したというわけなんですね。
  ああ、そうそう、あなたが不思議がっている“なぜ熊本にはハード系パン
  がないのか?“ってことですけどね、それは熊本だけの問題じゃないです
  よ。東京だってどこだって、日本の街の中で石窯持って営業しているパン
  屋はそうないですよ。ドイツパンのような固いパンはね、直火、つまり石
  窯で、それも薪でなくッちゃしっかり焼けません。でも街中に、石窯が作
  れたり薪が燃やせたりするところなんて滅多にはありませんよ。街で使う
  と薪も高くつきますからね。どうしても電気窯が多くなります。だから柔
  らかいパンが主流になるんですね。郊外や田舎に石窯焼きのパン屋が多い
  のはそういう理由からです。パン職人が総じて田舎が好きってことじゃな
  いんです。うーん、ウチはね、頑張って直火で焼いているけども、湿気の
  処理がいちばん大変でしょうかねえ。


目から鱗とはこのことでした。
なんで日本では欧州系のハードなパンが少ないのか、
そのわけがよく判った。
鍵は薪の火と湿気にあるのだ。
それからここ子飼のような、
どちらかといえば高齢者の多いまったりとした商店街の中で、
柔らかい“お好み焼きパン”とか“たまごサンドイッチ”ではなく
欧州系の固いパンを扱っている謎の解明もできました。
レストランからの出発ならばさもありなん。
せっかく身につけたパン焼き術を使わない手はありませんもん。
今日はいろいろが腑に落ちました。
尚かつ勉強にもなりました。
トトロ亭さん、ありがとうございます。
念のため住所を記します。

『香味屋トトロ亭』〒860-0854 熊本市東子飼町3−4 
         ☎096-343-0128


さて、棚の上で熟成中だったライ麦70%キャラウェイシード入りカンパーニュ、
完熟を待たずして持ち帰ったので、
引き続きうちの窓辺で小一時間ほど寝かせることに。
あら熱が引き、水分が去り、芯まで固くなったら熟成完了となり、
そこで切り分けることができるそうです。
あと一時間もある。
早く美味しくなってくれろ!
モーツアルトでも聴かせましょうかねえ。

ウチの窓辺で熟成中




 
 
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